時はそうして動き出す。
時を経て生まれた新たな希みのために。
乾いた風が吹く街で、自分を呼ぶ声がした。どこかで聞いた声だった。
驚きはしたが、不思議には思わなかった。誰と迷う必要もなかった。
歩み寄り、前に立つ。流れた時のぶんだけの変化を感じながら、それでも分かった。
彼は笑顔だった。おそらく、自分も同じような具合だっただろう。
目を合わせ、ひとつ頷く。互いに片手を挙げ、頭上で打ち鳴らした。
そうして初めて隣に並ぶ。
そのとき、彼は嬉しそうに笑って自分を見た。夢に見たよ、そう言って。
分かるような気がした。いや、自分こそそれを望んでいた。
何の気負いもなく、迷いもなく、並び立ちたかった。ずっとそう願っていた。
道が分かれ、途絶えても。
告白のように自分が言うと、彼は笑って言った。でも、また重なることもある。
人と人とのつながりは、そうやってできているのだから。
──受け売りだけどね。彼は片目を瞑ってみせた。
故郷からの風が見知らぬ地に吹き渡る。その風に押されて、並んで歩き出した。
昨日という過去の先が今日に、今日という今の先が未来へと流れるように、風は吹く。
風は見えないけれど流れていく。確かにそこにあると知っている。
そして、時もまた。いつか歴史という形になるだろう、今もまた。
思い出したのは、平易な言葉。望んだのは、飾らない距離感。
時がそうして動き出す。
時を経て生まれた新たな希みのために。
Timeline until abandon the crown
あとがき
2021年3月発行の「Timeline until abandon the crown」の再録作品です。旅に出たディリータと、それを待ち受けていたラムザの話(にしては短いですが)でした。実は「Salute」(2005年作)のエピローグとほぼ同じ内容になっていますが、書き直したこちらもとても気に入っています。
「初めて隣に並ぶ」という言葉を書きましたが、ゲーム中ではそういう関係ではなかったなと思っています。Chap.4でのゼルテニアの町外れの教会でちょっと掠ったかも? 違う道を選んだ先にあったもの……それを得て(あるいは失って)どうなったのか。正解はないですが、それ故に希望願望も込めて書きました。
ちなみに、この後の旅については「Salute 2」(2007年作)という話などでも触れていますので、気になるぞという方はあわせてどうぞ。
2021.3.21 / 2023.11.25
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