Jumping Fish

1

 光が、弾ける。

「どしたぁ? 白昼夢かー?」
 聞き慣れない声が間近に聞こえ、ディリータは我に返った。
 その瞬間、くらりと眩暈がした。今までずっと暗がりにいたかのように辺りは眩く、白かった。思わず、目を眇める。
 眇めた目で視線を彷徨わせた末に見えたのは、地面に伸びた自分の影。地面の白っぽさと黒い影のコントラストが「今」は真昼なのだということを如実に物語っていた。
 奇妙だった。「今」は夜、元老院や貴族どもが連なる夜会に渋々ながら出ていたはずなのに。そう、今の今まで。
 ──何が、起きた?
 弾かれるように顔を上げ、眩暈を無視して周囲を見渡す。まず太陽を仰ぎ、それから見慣れぬ光景にディリータは素早く目を走らせた。
 何かの広場……練兵場だろうか。自分を見つめる男達。彼らは木刀を携え、不思議そうな顔を向けている。背後には軍装を施したチョコボが数羽。視界の端には、無骨な造りに見える屋敷。
 その屋敷にはどこか見覚えがあった。だが、それは既に無いはずのもので、故にディリータは自分の目を疑った。
「何故、ベオルブ邸が……え?」
 呆然とディリータは呟いたが、同時に違和感を覚えた。──声が、自分のものとはまるで違う。
「ジレ、どうした? チョコボに落ちたくらいでめげたか?」
 知らぬ名を出し、誰かが誰かに声をかける。それが、自分へ向けられたものだとディリータが気付くまでには数瞬を要した。
 男達が自分を見ている。見たこともない顔ぶれだったが、不思議に思う前にディリータは彼らの名を口にした。
「エイム、ソート、それにミケーラ……?」
 自分の声色ではないと漠然と感じながらディリータが呟くと、彼らは首を傾げた。次いで、揃って「あーあ」と声を上げる。
「こりゃ、頭打ったか……」
「少し休むか? ミケーラ、ハウゼンを呼んでくれ。一応診せる」
「そうだな。ジレ、立てるか? 向こうまで歩けるか?」
 疑問が疑問を生み出す前に運んでいく事象についていくことができず、ジレと呼ばれたディリータは曖昧に頷いた。そういえば、頭が痛い。
 ──いったい、何が。
 それでも言われるままに立ち上がったが、体の重さが思っているのと微妙に違うことに再び違和感を覚えた。なんとなく、いつもの自分より少しばかり身軽い気がした。視界も、どことなく違うような気がする。
「……?」
 その違和感の集合体に不安を感じ、ディリータは自身に目を向けた。
 身につけているのは、革鎧。確か、衛士が着るような類のもの。
 革の手袋を取り去り、手を見つめる。自分の知っているそれより、その手は今少し小さかった。
 自分のものでは、ない。
「鏡、は……。いや、無理だ、違う」
「おい、ジレ!」
 支えてくれていたソートが慌てて静止の声を上げたのを無視し、ディリータは走り出した。
 ──何が、起きたのか。何を、されたのか。……まさか!
 痛む頭もそのままに、近くの厩まで走る。驚く厩番も無視し、それでもチョコボを驚かさないように精一杯気を落ち着けて房を進むと、ディリータは厩で一番明るい房に備えられた水桶に顔を向けた。
 そうして、ディリータは「現実」と直面した。