第1回畏国縦横無尽ウルトラクイズ

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 草木も眠る丑三つ時。
 次のチェックポイントであるゼイレキレから少し離れた瀟洒な宿屋の前に、彼らはいた。
 彼らが皆等しく手にしているのは──そう、次期国王と謳われる彼も、名怪盗と呼ばれる彼も、あの人もこの人も──表が「○」で裏が「×」な枕。
 彼らをここまで連れてきた男は見上げていた宿舎から視線を外すと、暗がりの中で彼らを眺めやった。
 そして小声で会話を始める。
「今、勝者の連中が泊まっているのがこの宿です。しかし皆さんには宿は準備されてないわけです」
 男──マメコウの言葉に彼らは一斉に頷いた。ウルトラクイズの予算は乏しい。ドロンコクイズで生み出された大量の敗者に用意する宿舎の資金など捻出できるわけもないのだ。故に彼らはここまで寝袋ひとつでやって来た。
 どこまでも勝てば天国、負ければ地獄なのである。
「しかしそれではあまりに悔しい。ですから私は皆さんに問います」
 マメコウはあくまで小声で、そうして敗者に問うた。
「みんな! ディープダンジョンに行きたいかー!」
「おおーっ!」
 ……あくまで小声である。
「敗者復活をしてほしいかー!?」
「おおおーー!!」
 どこまでも小声である。ということになっている。
「では」
 マメコウは傍らに佇んでいた彼に指図を出す。指令を受け、次期国王候補は宿舎へと忍んで行った。


 そして数分後。
「……起きろ」
「うーんもう食えな……? ……な、な、な!?」
 布団をひっぺがされ、蹴り落とされた哀れなムスタディオは突然の出来事に、至極当たり前のことだがパニックに陥った。
 何が起きたのかまるで理解できない思考回路のまま辺りを見渡すと、暗い室の中に誰かがいる。誰だ?と確認しようとしてムスタディオは枕を顔面にくらった。
 そう、○と×が描かれたあの枕である。

「お、夜分遅くすいませんね、ムスタディオさん。おお、素晴らしく眠そうだ」
 ディリータに手をひかれ、宿舎のロビーに寝ぼけマナコでやってきたムスタディオは、あたりをぐるりと見渡し、そこでようやく事の異様さに気付いた。
 枕投げかと思ったが、オーボンヌからゼイレキレまで仲良く旅をしてきた仲間と顔ぶれが違う。そして渡された枕もよく見てみると、そこには見慣れた文字がでかでかと書いてある。
 まさか。
「……え?」
「さあさあ、ムスタディオさんはここに。皆さん準備はいいですかー? それではオーボンヌ敗者復活戦『ナイトアタック』、始めさせていただきます。ここで勝ちぬけられるのはおひとり。そのひとりが決まるまで皆さんには延々と○×クイズをしてもらいまーす。ではいきますよー」
「聞いてないぞ?!」
 ムスタディオの叫びは当然の如く無視され、ここに真夜中の死闘が始まってしまったのだった。

「ホールドアップ!」
 あくまで小声で号令がかけられ、挑戦者達は正解と思うほうの答を向けて、自分の顔の前に枕を掲げた。

 ──そして数時間後。
 激戦の上に勝者はひとり決定し、勝者には宿舎の一室が、敗者には○×枕と寝袋が与えられた。



 が、しかし。
「俺、あのとき負けててほんとに良かったって思うわ。俺みたいなフツーの人間じゃあの先はムリ。絶対ムリ。レーゼさん? レーゼさんも普通じゃないって絶対」
 後日、敗者のひとりにして何故か最後まで勝負を見届けることができた者は、他の敗者にこんなふうに語ったという。