09 なくした記憶、捨てられた過去

 ベイグラントストーリーでプレイヤーが唯一動かすことのできるキャラ、アシュレイ・ライオット。彼はVKPアカデミーを首席で卒業し、その後近衛騎士団に入団。エリートとしての道を順調に歩んできたはずの人間でした。ところが、野盗に妻子を殺されてしまったことから彼の人生は大きく狂います。近衛騎士団を退団、VKPの中でももっとも危険とされる重犯罪者処理班へ異動。リスクブレイカーとして行動する彼を動かすものは、家族を奪われた悲しみと怒りでした。
 少なくとも彼はそう思って行動してきました。

 ところが。

 クリアした人なら分かると思いますが(レアモンデ砦までプレイした人ならというべきか)、彼の「記憶」を根底から覆すような科白が第三者から次々と吐かれます。胡散臭い新興宗教の教祖から。見覚えのない「かつての」同僚から。当然、アシュレイは混乱します。同時にプレイヤーも混乱します。
 紆余曲折の結果、彼は確かに今までの記憶とは違う「何か」を手に入れたわけですが、その「何か」はさておき、実際のところどうだったのか……すなわち、アシュレイの辿ってきた経緯とはどういうものだったのか。推測を交えながら検証してみたいと思います。謎謎ペーパー拡大編のはじまりはじまり。

 まずは、アシュレイの過去に関するイベントを集めてみましょう。

第三者が語っているイベント

第三者が語っていないイベント


 以上の結果から、この件に関わる人物達の認識をまとめてみましょう。

アシュレイ・ライオットの場合

認識していること…
妻子を過去に殺されている
近衛騎士団に所属していた
VKPには妻子殺害の事件後、希望して配属
認識していない・知らないこと…
ローゼンクランツの存在(チームを組んでいたという過去)
過去に間違って罪なき家族を殺害したということ
自身が殺人技を身につけていること
魔の存在及び牧場化

ジャン・ローゼンクランツの場合

認識していること…
自分とアシュレイは同じチームにいた
その頃のリスクブレイカーとは特殊部隊であり、今のものとは違う
自分に魔は効かない
法王庁とメレンカンプの情報を握っている
認識していない・知らない・信じていないこと…
アシュレイに妻子がいたこと
アシュレイが近衛騎士団に在籍していたこと
魔への適性

シドニー・ロスタロットの場合

序盤…
妻子が殺されたのは守れなかったアシュレイの責任
(誰かに責任を押し付けているアシュレイを咎めたものだと思われる)
中盤…
アシュレイの過去を否定
VKPがアシュレイを操るために洗脳を行ったということ
アシュレイの身につけている殺人技はレアモンデの秘術ではないということ
終盤…
「失った妻子を助けることができるかもしれんぞッ!」

 という感じになるのですが、それにしてもシドニーさん、本当に混乱させてますね。アシュレイの認識とローゼンクランツの告白だけならまだ整合させる余地はあるのですが、この酔狂な宣教師さんがころころ発言内容を変えるものだからさっぱり分からなくなってしまった、というのが本当のところです。
 しかし、彼は完全なる第三者であるので(*1)元々発言内容に説得力がありません。ローゼンクランツの発言も同様にVKPもしくはシドニーに洗脳されたものだと考えることもできますが、彼の発言すべてを否定してしまうことは実際、考えにくいことです(*2)。ローゼンクランツがひどく懐かしそうな表情で語ったというのもその理由のひとつですが、アシュレイが自分でも覚えていない殺人技を身につけていたというのも大きな理由になりうると思います。レアモンデに到達するまで、アシュレイは「殺人技」を忘れていました。しかし、魔の力を借りて?殺人技とも呼ばれるアビリティ(*3)を次々と思い出していったのです。となると、ローゼンクランツの発言にあったような時間というのはアシュレイの中にあったと考える方が自然です。
 とはいえ「アシュレイはリスクブレイカーとして任務を行っており、妻子はいなかった」と考えるには尚早です。レアモンデ砦までならそう考えた方が実は自然だったりするのですが(そしてFF7か!と倒れるわけで)、キルティア神殿におけるシドニーの捨てゼリフおよびラスボス直前のイベントがそれを許しません。
 特にラスボス直前イベントは魔の囁きをアシュレイ自身が否定し、ティアとマーゴが語りかけるという重要なシーン。「他人の言葉に惑わされないで」というティアの言葉で勢い余って「ローゼンクランツの告白はやっぱり嘘?」と考えてしまうかもしれませんが、それは先述のとおりある程度本当のところだと判断します。でも、やはりティアとマーゴもまた彼と共にあった…「結びついた魂」がこの物語のキーワードになる以上(*4)、こちらもそのように考えるのが妥当なようです。

 要するに「アシュレイに妻子がいたこと」も事実であるし、その一方で「殺人技を使うような部隊でローゼンクランツとチームを組んでいた」という過去もまた事実と考えるのが理に適っていると思うのですが、その場合、アシュレイそしてローゼンクランツは多かれ少なかれ「VKPの事情で」洗脳を受けたものと推測します(*5 → *c)。
 さて、そうなると気になるのが「アシュレイの辿ってきた経緯」ですが、できるだけ矛盾の少ない形で表にしてみました。こんな感じです。

 アシュレイの年齢は20代後半という公式設定があるので、それにあわせてみたのですが、少々無理があるかもしれません。ゲーム中のアシュレイの様子から、ティアとマーゴの件は生々しく彼の記憶に残っているのではと推測しています。しかし、その後にローゼンクランツの言う過去を経ていると考えると(*6)、さらに数年の経過は必要となります。ということで、大体マーゴ誕生からは7年位経っているのでは、と考えてみました。アシュレイさん、相当若い時に結婚して子供を持ったことになるのでしょうか。…まあ、いいか。
 表中の注釈について簡単に述べます。

  1. これはゲームのとおり。ただし、配属先に当時「闇の特殊部隊」であったリスクブレイカーを自ら選んだかどうかは疑問です。VKP側がアシュレイを利用しようと妻子を殺害したと考えることもできますが……。
  2. 1回目の洗脳では妻子の存在をおそらくは(精神的障害を防ぐか何かの理由で)忘れさせられていたと推測。しかし、2回目ではそれまでのリスクブレイカーとしての経験を封印するかわりにというべきか、過去の記憶が(アシュレイは気付かないのですが断片的に)戻ったのでは。故意的な記憶喪失みたいなもの? そんなわけで、ティアとマーゴの記憶は強烈に残っている「丘の上でのピクニック」ばかりが残り、ローゼンクランツのことはきれいさっぱり忘れていたのかもしれません。
  3. 「オレの能力が効かないとおまえが勝手に思いこんでいただけじゃないか」…シドニーはそう語っていますが、何故ローゼンクランツはそう思ったのか。そもそも、ローゼンクランツがVKPを抜けた背景もかなり灰色めいたものがあります。となると、何らかの洗脳と監視があってもおかしくないのでは。

 アシュレイの過去にはVKPが暗い影を落としています。VKPがアシュレイに関わるようになったのは、一体どの段階からなのでしょうか。近衛騎士団にいた頃から? とすると、ティア&マーゴ殺害の時点でVKPが関与している可能性もあります。ティア&マーゴが殺害され、アシュレイがフリーになった時点でしょうか。そして、アシュレイをレアモンデに派遣したその真意とは。偶然か、必然か?
 とはいうものの、語るものは誰も既におらず、結局狙っていた「魔」は持ち逃げされてしまいました。VKPの表面的な(と推測する)狙いであった「宗教集団メレンカンプの殲滅」は果たせたわけですが、そのトップであるシドニーの捕縛と「魔」を手に入れることはできなかったわけで、それをVKPがどう思っているのか(*7)。それを考えることでアシュレイの行く末──放浪者の物語──を知ることができるかもしれません。


note

  1. 諸説色々ありますが、「……騎士団じゃないな、貴様?」というセリフからシドニーとアシュレイのファーストコンタクトは公爵邸であったと推測。それ以前には会ったことはないと思います。そもそも、シドニーはアシュレイの深層心理を読んでいるだけにすぎなかったりも。
  2. その主な理由は上に挙げたとおり。「もし、本当に嘘だとしたらもっと煽って疑心暗鬼にさせるだろう」という本音もあったりしますがそいつはさておき。そういえば、ローゼンクランツがレアモンデ砦で語ったこととハーディンがキャロに語ったことは時間軸で繋がっています。細かい。
  3. 今の「重犯罪者処理班としてのリスクブレイカー」と当時の「特殊部隊としてのリスクブレイカー」の差が分かります。それにしても魔の助けを借りてアビリティを思い出した、ということは「魔によって洗脳が解けた」ということにもなって、「魔とVKPの洗脳は呼応する」ということにもなるのでしょうか。それともこれはシドニーの仕業か。←また謎が増えた
  4. 「結びついた魂」でなければ意味がない。シドニーがローゼンクランツに「アシュレイが適任だ」と語り、キャロが土壇場で「結びついた魂で…」と叫んでしまったことから、やはりアシュレイにとっての「結びついた魂」とはティア&マーゴであると考えています。でもそれは生贄などではなく、もっと精神的なものではないかなと思います。
  5. 上記 *c に語ったとおり。
  6. と書いていて、ふと「ローゼンクランツとの過去が先で、ティア&マーゴの件が後だとしたら…すなわち、独身時代にRBとして名を馳せていたが、何らかの理由で普通の生活に戻っていた…」というのが頭を過ぎりました。これも可能性のひとつとして大いにありえるでしょう。もっとも、あの聡明なティアさんは洗脳状態すら看破できそうでもありますが…。しかし流れ的にはこっちの方が自然かも?
  7. とはいえ、快く思っているわけがなく。「公爵殺害の下手人」という名目でアシュレイを捕縛しようと躍起になっているのはご存知のとおり。

2001.10.07