ベイグラントストーリーでプレイヤーが唯一動かすことのできるキャラ、アシュレイ・ライオット。彼はVKPアカデミーを首席で卒業し、その後近衛騎士団に入団。エリートとしての道を順調に歩んできたはずの人間でした。ところが、野盗に妻子を殺されてしまったことから彼の人生は大きく狂います。近衛騎士団を退団、VKPの中でももっとも危険とされる重犯罪者処理班へ異動。リスクブレイカーとして行動する彼を動かすものは、家族を奪われた悲しみと怒りでした。
少なくとも彼はそう思って行動してきました。
ところが。
クリアした人なら分かると思いますが(レアモンデ砦までプレイした人ならというべきか)、彼の「記憶」を根底から覆すような科白が第三者から次々と吐かれます。胡散臭い新興宗教の教祖から。見覚えのない「かつての」同僚から。当然、アシュレイは混乱します。同時にプレイヤーも混乱します。
紆余曲折の結果、彼は確かに今までの記憶とは違う「何か」を手に入れたわけですが、その「何か」はさておき、実際のところどうだったのか……すなわち、アシュレイの辿ってきた経緯とはどういうものだったのか。推測を交えながら検証してみたいと思います。謎謎ペーパー拡大編のはじまりはじまり。
まずは、アシュレイの過去に関するイベントを集めてみましょう。
以上の結果から、この件に関わる人物達の認識をまとめてみましょう。
という感じになるのですが、それにしてもシドニーさん、本当に混乱させてますね。アシュレイの認識とローゼンクランツの告白だけならまだ整合させる余地はあるのですが、この酔狂な宣教師さんがころころ発言内容を変えるものだからさっぱり分からなくなってしまった、というのが本当のところです。
しかし、彼は完全なる第三者であるので(*1)元々発言内容に説得力がありません。ローゼンクランツの発言も同様にVKPもしくはシドニーに洗脳されたものだと考えることもできますが、彼の発言すべてを否定してしまうことは実際、考えにくいことです(*2)。ローゼンクランツがひどく懐かしそうな表情で語ったというのもその理由のひとつですが、アシュレイが自分でも覚えていない殺人技を身につけていたというのも大きな理由になりうると思います。レアモンデに到達するまで、アシュレイは「殺人技」を忘れていました。しかし、魔の力を借りて?殺人技とも呼ばれるアビリティ(*3)を次々と思い出していったのです。となると、ローゼンクランツの発言にあったような時間というのはアシュレイの中にあったと考える方が自然です。
とはいえ「アシュレイはリスクブレイカーとして任務を行っており、妻子はいなかった」と考えるには尚早です。レアモンデ砦までならそう考えた方が実は自然だったりするのですが(そしてFF7か!と倒れるわけで)、キルティア神殿におけるシドニーの捨てゼリフおよびラスボス直前のイベントがそれを許しません。
特にラスボス直前イベントは魔の囁きをアシュレイ自身が否定し、ティアとマーゴが語りかけるという重要なシーン。「他人の言葉に惑わされないで」というティアの言葉で勢い余って「ローゼンクランツの告白はやっぱり嘘?」と考えてしまうかもしれませんが、それは先述のとおりある程度本当のところだと判断します。でも、やはりティアとマーゴもまた彼と共にあった…「結びついた魂」がこの物語のキーワードになる以上(*4)、こちらもそのように考えるのが妥当なようです。
要するに「アシュレイに妻子がいたこと」も事実であるし、その一方で「殺人技を使うような部隊でローゼンクランツとチームを組んでいた」という過去もまた事実と考えるのが理に適っていると思うのですが、その場合、アシュレイそしてローゼンクランツは多かれ少なかれ「VKPの事情で」洗脳を受けたものと推測します(*5 → *c)。
さて、そうなると気になるのが「アシュレイの辿ってきた経緯」ですが、できるだけ矛盾の少ない形で表にしてみました。こんな感じです。
アシュレイの年齢は20代後半という公式設定があるので、それにあわせてみたのですが、少々無理があるかもしれません。ゲーム中のアシュレイの様子から、ティアとマーゴの件は生々しく彼の記憶に残っているのではと推測しています。しかし、その後にローゼンクランツの言う過去を経ていると考えると(*6)、さらに数年の経過は必要となります。ということで、大体マーゴ誕生からは7年位経っているのでは、と考えてみました。アシュレイさん、相当若い時に結婚して子供を持ったことになるのでしょうか。…まあ、いいか。
表中の注釈について簡単に述べます。
アシュレイの過去にはVKPが暗い影を落としています。VKPがアシュレイに関わるようになったのは、一体どの段階からなのでしょうか。近衛騎士団にいた頃から? とすると、ティア&マーゴ殺害の時点でVKPが関与している可能性もあります。ティア&マーゴが殺害され、アシュレイがフリーになった時点でしょうか。そして、アシュレイをレアモンデに派遣したその真意とは。偶然か、必然か?
とはいうものの、語るものは誰も既におらず、結局狙っていた「魔」は持ち逃げされてしまいました。VKPの表面的な(と推測する)狙いであった「宗教集団メレンカンプの殲滅」は果たせたわけですが、そのトップであるシドニーの捕縛と「魔」を手に入れることはできなかったわけで、それをVKPがどう思っているのか(*7)。それを考えることでアシュレイの行く末──放浪者の物語──を知ることができるかもしれません。
2001.10.07