Promise And Secret

「教会で誓いを……」
「何を馬鹿なこと言ってるの?」
 あれこれそれこれああだこうだとしているうちに季節は過ぎ去り、それからも色々あって、結果的に男から出てきた言葉はなんとも夢見がちなもので、バルマウフラは大いに呆れた。
「馬鹿かな」
「大馬鹿よ」
 バルマウフラがそう断言すると、男は顎に手を当て考え込む。次は何を言い出すのだろうか。
 書斎のいつもの椅子に座り、バルマウフラはそんな男を眺めた。
「まあ、確かに誰かに誓わなくても……だね。でも、指輪は用意してもいいだろう?」
「しばらくは付けられないわよ。むくむでしょうし」
 即座にそう返すと、男は今度は頭を抱えた。ひどい、と呟きが聞こえたような気がするが、バルマウフラは無視することにした。
 神への誓いは要らない。
 揃いの指輪も要らない。
「それよりも」
 勢いをつけて立ち上がる。机の傍まで歩み寄ると、見上げてくる男をバルマウフラは睨むように見つめた。
「期限付きだけど。貴方は私を大切にしなさい」
「それは勿論」
 命令のようにバルマウフラが言うと、男は笑顔で頷いた。期限なんてないけどね、とそうして男は付け足したが、やはりバルマウフラは無視をする。
 そんなことはもう分かっている。否、分かるようになった。
「そして、さらにそれよりも」
 バルマウフラは続けた。
「……貴方は自分の心を大切にしなさい。自分の心に忠実に」
「バルマウフラ」
 浮かべていた笑顔を素に戻し、男が自分の名を呼ぶ。バルマウフラはそれに頷くと、男の肩に自分の手を添えた。
「貴方の行く先を私は見ている。見届けるために……いいえ、それだけではないけれど、ここにいる。貴方が最後まで自分の心に素直であることを信じて、ここに」
 真実を知りたい、と願った心を知っているから。
 バルマウフラがそう続けると、男は無言でバルマウフラの手をとった。薬指に口づけ、祈るように押頂く。
「必ず」
 短く紡がれた男の誓いに、バルマウフラは微笑んだ。


 それからさらにさらに月日は経ち、ある日のこと。
「そろそろ大丈夫だと思ってね」
 満面の笑みを浮かべた男から指輪を渡され、バルマウフラは諦めの溜息をついた。
 ──だが。
 男だけは知っている。ほんの少しだが彼女の瞳が潤んでいたことを。
 それは誰にも言わない、彼女にも言わない、男だけの秘密だった。

あとがき

6月第1日曜日はプロポーズの日だったらしく、TwitterのTL上でちらほらりとそういったツイートを見かけたのですが、頭の中がオーバル本の入稿でいっぱいいっぱいだったので今回は難しいかなあと思いつつも…ネタが浮かんだので遅刻しましたが書きました(長い)。

しかしなんというか…私のなかのバルマウフラさんはツンデレなんだと思います。はい。

2020.06.08