Dance Dance Dance

 風変わりな笛の音色が手拍子と共に風に乗っていた。

「回る! 回る! 今度は反対に! 左手を軽く上げて! 次は右手を下に!」
 あわせて響くのはラファの声だ。いつもより弾んだ彼女の声は、しかし、ラムザには違うもののようにも思えた。
「ぼんやりしないで、ラムザ! 遅れてる!」
 ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱぱん。
 ターン、ターン、逆ターン、左手上、右手下、左手上、右手下、左右の手を広げて合わせて、軽くジャンプ……。
 ──なんでこうなったんだっけ?
「アグリアスさんは早すぎる! ムスタディオはふらつきすぎ! メリアドールさん、ターンが反対! ベイオウーフさんはちょっと遅い、レーゼさんと伯は完璧です! ラッドは体幹がない!」
 その場にいる面子に首を捻る暇も与えず、ラファの指導が入る。ぐ、とアグリアスが渋面でよろめき、ムスタディオが姿勢を正し、メリアドールは慌てて二回転してしまった。横目で見ると、完璧だと評された二人だけが飄々とラファの指示通りに動いている。
 いや、「踊っている」のだ。


 発端は、ラファの「昔話」だった。
 旅路の休憩に、記憶の限りの楽しかったことをラファは笑顔で皆に披露した。あんなことがあった、こんな人がいた。辛い思い出が多いはずの彼女がそんなふうに過去を語れるようになったことがラムザには嬉しく思えた。……と同時に、彼女の年若さを思うと、癒えぬ傷を隠しているようで切なくもあったが。
「それで、夏至祭の舞姫達に大きくなったらなるんだって思って……そうだ、兄さん!」
 そんなラムザの感傷なぞまるで気にしたふうでもなく、ラファが手を叩いた。
「ああ、それはいいな。踊るんだろ?」
 さすが兄妹というべきか、マラークは妹の言葉の先を読んだらしい。傍らに置いていた荷物をガサゴソと漁ると、中から古びた笛を出してきた。
「そうそう。ん? あ、そうだ」
 笛の調音をしかけたマラークを制し、また何かを思いついたらしいラファが再び手を叩く。
 なんだどうした、と思っている一同に、そうしてラファは向き直り──。
「皆に踊ってもらいましょう!」
 と、のたまったのだった……。


「こ、これずっと続くのか……?」
 ゆらゆらと手を左右に動かしたかと思えば、ターン、ターン、ターン。笑顔で陽気に曲をよく聞いて。そんなふうに言いながらラファがくるくると踊るのをラムザ達全員が見つめる。
「そんなことないわ。曲によって雰囲気も振り付けもガラリと変わるもの。同じ曲でも舞姫の姉さま達はもっと複雑に踊ってたし、踊りを伝承する「先生」はすべての曲を極めていて……憧れだったなあ。皆に踊ってもらったのはあくまで基本の振り付けよ」
「基本……」
 なんらかの絶望感を感じたのか、メリアドールとアグリアスが溜息混じりに呟く。ムスタディオが天を仰いだのを見て、マラークが笑った。
「まあ、今のは簡単なほうなのは事実だな」
「簡単……」
 げんなりとした気分でラムザもマラークの言葉を繰り返した。
 日頃使っている筋肉とは別の部位がじんわりと痛い。運動不足だとは思っていないが、いつの間にか体が固くなってしまっていたのかもしれない。他の皆も似たりよったりだと思う。レーゼと伯が何故ラファの指導についていけたのかはよく分からないが。
 ──ラファの敏捷な動きはこんなところにも理由があったのかなあ。
 そこまで考えて、ラムザは「あ」と声を上げた。


 後日。
「ラムザは面白いこと思いつくのねえ」
 ぱん、ぱん、ぱん、ぱん、ぱぱん。
 手拍子をしながらラファがラムザに言った。
「踊ってるのとは少し違うけどね」
 腕をぐるりと回しながら、ラムザはラファに笑いかけた。確かに、慣れてしまえば「基本の踊り」はそれほど難しくはない。もう少し難しい「熟練の踊り」を考えてもいいかも、なんて思ったりもする。
「一日の始まりに体をほぐすにはちょうどよいな」
 同じようにすっかり覚えたらしい「ラファ体操」をこなしながらアグリアスも笑う。
 ぐるり、ぐるり。腕を下ろして、腰を反らす。そのまま腕をぶんぶんと左右に振ったり、跳ねたり、深呼吸したり。
 伸びをして、くるりと回って。それでおしまい……。
「最後の決めポーズまでやらなきゃ! 肝心なのに!」
「そ、それはちょっと恥ずかしいよ……」
 いつもの主張を繰り返すラファに、一同があさっての方向を向いてやり過ごそうとするものだから。
「フルクリティカルにならないわよー!」
 ラファの嘆きもまた、日常のものになろうとしているのだった。

あとがき

「シアトリズムファイナルバーライン(TFBL)」はよいぞ!と思った土曜日の朝、朝ごはんを食べながら思いついた話です。思いついたまま急いで書いたので短いですが、楽しく書けました。

TFBLの話をすると、2023/3時点ではほぼ基本の譜面しかプレイしていなかったりします。それでもちょうど楽しい~と思っているので(熟練もいつか後ほど)とてもバランスが良いリズムゲームだなあとほくほく。久々にゲームをプレイしていることもあって、新鮮な気持ちでもいます。

しかし、FFTがシリーズ内にあったのはとても嬉しかったけど、キャラがもう少し多ければよかったな…。ディリータとオーランあたりは無理でしたでしょうか…仲間じゃないから無理か…。無念!

2023.03.04