kawaii find the flame

 ああ、と内心で嘆息する。得も言われぬ感情が込み上げる。どこぞの誰かのようには表せないが、この感情はおそらく「愛」と呼ぶのだろう。クライヴはそう思った。
 かわいらしい曲にあわせて手と手が触れて、指先を掠めて、そうしてまた離れて、触れて。彼女の手はけしてたおやかではないけれど、剣を握ってきた者の手だけれど、この世界で一番好ましく、愛しい。実際には手だけではなく、彼女の存在そのものが愛しく、救いだった。
 辛いとき、苦しいとき、そんな日々も寄り添ってくれたから。――傍にいてくれたから。そう言うと、今の彼女は少し頬を膨らませて怒ってみせる。そんなことはない、とは言わなくなった。自分の言葉を少し肯定し、「でも、これからは分からないわよ?」と笑って挑発してくる。「それは怖いな」と心底から思ったままを告げると、彼女は普段より楽しそうに笑みを深めるのだ。
 自然にステップを踏む。視線が絡まる。くるり、と彼女が回転して、また手が触れた。


 瞳の奥に封じた、熾火を探す。探せる距離にいることが今でも少し信じられない。否、少しずつ信じられるようになった。これは現実なのだと、優しいまやかしではないのだと。ジルはそう思った。
 かわいらしい曲にあわせて手と手が触れて、指先を掠めて、そうしてまた離れて、触れて。彼の素手に触れる。傷だらけの手だけれど、労苦を知る手だけれど、この世界で一番愛しい。この手しか知らないから、というわけではない。彼の存在そのものが自分を生かし、今日まで。
 何も考えられない日々。彼のことすら忘れた日々があった。そう告白した夜に、彼は壊れ物を扱うかのようにゆるりと抱きしめてくれた。肩が少し湿った。彼の肩に顔を伏せて、そう、自分も。過去の苦しみを分かち合えるようになった今を、何よりも大切に思う。
 絶対の安寧をもたらす彼と踊る。視線が絡まる。くるり、と回って、また手が触れた。

§  §

 昼下がり。閑散としている隠れ家の大広間に、かわいらしい音楽が響く。うっすらと聞こえてきたその曲に吸い寄せられるようにジョシュアは大広間に入った。
 二人分の足音が、曲に合わせて聞こえる。
 そうして、二人が躍る姿が。
 ぽかん、と眼前の光景を見つめたジョシュアだったが、横の気配に視線を転じた。いつもはルカーンが陣取っている場所でテランスが座っていた。ジョシュアが小首を傾げて状況の説明を求めると、彼は立ち上がって声を潜めて話し始めた。
「ディオン様……ディオンがオーケストリオン譜をマルシェで見つけて。オーケストリオンがある店で一度聞いたのですが、冒頭で『これは隠れ家でジル殿だな』と微笑まれたのでこうして足を運んだ次第です」
「なるほど……そう、なるほどね」
 かわいらしく、明るい曲。けれど、隠れた熱量を感じる。隠れた悲哀を感じる。そんな、不思議な曲。
 その曲に合わせて兄と姉とも近しい幼馴染が、即興で躍っていた。
 かつての主人兼恋人のことを四苦八苦の末に敬称抜きで話したテランスを面白く感じながら、ジョシュアは視線を元に戻した。
 曲はおそらく終盤。繰り返される同じフレーズに乗って、二人が笑いながら踊る。自然な笑みだった。
 その笑顔に、ジョシュアは頬が緩むのを抑えられなかった。戸口に寄りかかって「幸せそうでよかった」と呟くと、「ええ」とテランスが相槌を打った。
「……まあ、君の場合はディオンの贈り物が功を奏したのが嬉しいんだろう?」
 横目で見やり、揶揄の思いで訊いたジョシュアに、テランスは全肯定で頷いた。

§  §

「楽しそうだな」
「そうだな。何よりだ」
「違ぇよ、クライヴとジルのことじゃない。あの二人は放っておいても……いや、そうでもないが、基本的に今は「春」だかんな」
 オーケストリオンの横、ラウンジの奥からガブとディオンは大広間の二人を眺めていた。独り言に頷いてしみじみと言った元バハムートを見やり、ガブは苦笑した。
 きょとん、とした風情でディオンがこちらに視線を送る。どういうことだ、と疑問符を浮かべた彼に、「あんただよ」とガブは言った。
「すごく楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうだ」
 彼が恋人と一緒に佇むときとはまた別種の表情だとガブは思う。しかし、こんな顔を他人に容易に見せてもいいんだろうかと思いながら戸口に視線を一瞬向けると、そこにはテランスとジョシュアがいた。なんとも、おそろしい。
「幸せそう? それは勿論」
 戸口に佇むテランスを見やって、ディオンが微笑む。
「人の幸福は、巡って己を生かす。……ようやく、他者の幸福を喜べるようになった」
「……なるほどね」
 曲はおそらく終盤。繰り返される同じフレーズに乗って、大広間の二人が笑いながら踊る。何にも代えがたい自然な笑みで。

§  §

 ところで、とジョシュアはテランスに訊ねた。無粋だが、値段を聞いておく。
「三千ギルです」
 にっこりと笑顔で事も無げに言ったテランスが胡散臭く、思わず半目で見やる。違うだろう、と暗にジョシュアが脅すと、テランスは苦笑して正解を答えた。
「その百倍ですね」
「……。また、思いきったことをするね」
 ジョシュアの呆れた口調をどう思ったのだろうか、笑みを深めてテランスは「まったく。だから、今はすっからかんです」と言った。
「宵越しの金は持ちたくない、と」
 新しい世界ですから、と付け添え、テランスが動く。曲が終わり、見つめ合うクライヴとジルに向けて拍手する恋人のほうへと。
 ジョシュアは諸々に嘆息した。なんだか無性に自分を知る存在の顔を見たくて、そうして大広間を出たのだった。

あとがき

SS文庫メーカーで作成してXにポストしたテキスト画像を収録しました。「#SQkawaii Sounds -FINAL FANTASY-」に収録されたFF16クライヴさんリミブレ曲「Find the Flame」を帰宅途中に聞き、「やっぱりアルバムのなかで一番かわいいよなー好きだなー」とあらためて思った次第。この曲にあわせて踊るジルさんと巻き込まれるクライヴ兄さんを前々から書いてみたかったのですが、そこに半ば強引にテラディオを捻じ込…げふげふ。ジョシュアとガブが巻き込まれ気味ですが、幸せな風景が書けて楽しかったです。

2025.08.31